2026.03.14
ぼくらの駐車場戦争
建設現場の朝は早い。
だが近年、本当の戦いは作業自体ではなくなっている。
駐車場だ。

札幌は政令指定都市。
人口はもちろん、車の台数も半端ない。
関東圏と違い、基本は車社会。
毎日の工事現場に出向くのも、車を使うのが普通だ。
昔は元請が作業員の駐車場を提供するのが当たり前で
現場内駐車か、元請が用意した駐車スペースを利用する。
それが普通だった。
だが近年は、ゼネコン側にそんな余裕もなくなったのか、
現場側が駐車スペースを用意することはほとんど無い。

それどころか、
現場前はもちろん、現場内に一時停車すら許可制で、
付近を自由に行き来することも難しい環境になった。
有料駐車場が満足に無い地域での作業は、
工事としてはなかなか至難の業だ。
駐車料金問題もある。
一日駐車で「はい○○円」という世界だが、
建設現場があることで料金はどんどん高騰する。
しまいには「工事関係者駐車不可」
にされてしまうこともある。
当たり前かもしれないが、
有料駐車場に一日停めっぱなしの車ばかりだと、
回転してなんぼの駐車場側は利益にならない。
そのため工事現場が近隣で始まると、
一斉に値上げということも珍しくない。
これが地味どころか、
確実に施工店の経営を圧迫する。
現場に着く時間より
「どこに停められるか」
の難易度が、一日を決する。

コインパーキングは奪い合い。朝礼は8時からなのに、
駐車場強奪バトルのために5時台から現場に来ている職人も多い。

見積もりにも同じことが言える。
昔は現場サイドが駐車場を用意するのが当たり前で、
見積もりに「駐車料金」などという諸経費は計上していなかった。
現代はこれを考慮しないとそのまま赤字になる。
現場に停められない弊害は、
朝礼前の資材や道具搬入にもつながる。
現場付近に大量の搬入一時停車があふれ、
近隣住民のクレームにつながる。
そしてルールはどんどん厳しくなる。
朝礼前の一時駐車はもちろん、
搬入はすべて許可制。
一定時間までは駐車場すら入れられない
という状況も珍しくない。
そんなことをしていたら、
実際の作業時間はどんどん削られる。
一日の予定が立たない、なんてことも日常茶飯事だ。
積雪地域の方は分かると思うが、
有料駐車場の多くは
「除雪をしない」
というのも、
常に車が停まっている以上、
重機を入れて除雪するメンテナンスは
営業しながらではほぼ不可能だからだ。

仮に通路だけ除雪しても、
実際に停める場所は物凄い段差のまま。
ランクルですらスタックするほどの
積雪段差ができる場所も普通にある。
まともに停めようものなら
車の破損待ったなしだ。
そんなところに建築するなら、
施工店の駐車場ぐらい確保しろよ!!
……と、小さい声で
後ろ向きに呟くしかないのが「請け負け」という世界。
だからどうしろと声高に言えるわけでもないが、
どうにかならんもんかなぁ
と、施工店はいつも頭を抱えている。
そして僕らは、
また明日も8時の朝礼に立つ。

それではまた、どこかの屋上で。
山本
だが近年、本当の戦いは作業自体ではなくなっている。
駐車場だ。


札幌は政令指定都市。
人口はもちろん、車の台数も半端ない。
関東圏と違い、基本は車社会。
毎日の工事現場に出向くのも、車を使うのが普通だ。
昔は元請が作業員の駐車場を提供するのが当たり前で
現場内駐車か、元請が用意した駐車スペースを利用する。
それが普通だった。
だが近年は、ゼネコン側にそんな余裕もなくなったのか、
現場側が駐車スペースを用意することはほとんど無い。

それどころか、
現場前はもちろん、現場内に一時停車すら許可制で、
付近を自由に行き来することも難しい環境になった。
有料駐車場が満足に無い地域での作業は、
工事としてはなかなか至難の業だ。
駐車料金問題もある。
一日駐車で「はい○○円」という世界だが、
建設現場があることで料金はどんどん高騰する。
しまいには「工事関係者駐車不可」
にされてしまうこともある。
当たり前かもしれないが、
有料駐車場に一日停めっぱなしの車ばかりだと、
回転してなんぼの駐車場側は利益にならない。
そのため工事現場が近隣で始まると、
一斉に値上げということも珍しくない。
これが地味どころか、
確実に施工店の経営を圧迫する。
現場に着く時間より
「どこに停められるか」
の難易度が、一日を決する。

コインパーキングは奪い合い。朝礼は8時からなのに、
駐車場強奪バトルのために5時台から現場に来ている職人も多い。

見積もりにも同じことが言える。
昔は現場サイドが駐車場を用意するのが当たり前で、
見積もりに「駐車料金」などという諸経費は計上していなかった。
現代はこれを考慮しないとそのまま赤字になる。
現場に停められない弊害は、
朝礼前の資材や道具搬入にもつながる。
現場付近に大量の搬入一時停車があふれ、
近隣住民のクレームにつながる。
そしてルールはどんどん厳しくなる。
朝礼前の一時駐車はもちろん、
搬入はすべて許可制。
一定時間までは駐車場すら入れられない
という状況も珍しくない。
そんなことをしていたら、
実際の作業時間はどんどん削られる。
一日の予定が立たない、なんてことも日常茶飯事だ。
積雪地域の方は分かると思うが、
有料駐車場の多くは
「除雪をしない」
というのも、
常に車が停まっている以上、
重機を入れて除雪するメンテナンスは
営業しながらではほぼ不可能だからだ。

仮に通路だけ除雪しても、
実際に停める場所は物凄い段差のまま。
ランクルですらスタックするほどの
積雪段差ができる場所も普通にある。
まともに停めようものなら
車の破損待ったなしだ。
そんなところに建築するなら、
施工店の駐車場ぐらい確保しろよ!!
……と、小さい声で
後ろ向きに呟くしかないのが「請け負け」という世界。
だからどうしろと声高に言えるわけでもないが、
どうにかならんもんかなぁ
と、施工店はいつも頭を抱えている。
そして僕らは、
また明日も8時の朝礼に立つ。

それではまた、どこかの屋上で。
山本
カテゴリ:つまらない話
2026.03.10
残クレでアルファード買う前に、防水直そ
街を走る、イケイケでピカピカの新車。

月々いくらで乗れます。
頭金ゼロでも大丈夫です。
今ならグレード、ワンランク上がお得です。
うまい言葉だなと思う。
私も車が好きで、尚かつ、自他ともに認めるミーハーなので、
トヨタ自動車の高級車は、いつだって憧れの的だ。
外観ピカピカの新車を購入しても、
あまり気にされないのが、人の目に触れにくい「下回り」。
北海道でひと冬越えると、
道路に撒かれた融雪剤(塩化カルシウム)の影響で、
下回りがサビサビ、なんてことも珍しくない。

気にする方は、洗車のたびに下回りを洗い、
自ら屈んで車体の下を確認する。
車好きというより「見た目好き」な方々は、
下回りの重要性はなんとなく分かっていても、
つい目を伏せがちだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
建物の維持はどうだろう。
外観は、アルファードに憧れるのと同じように、
シールのひび割れや塗装の劣化を気にする人は多い。

劣化を敏感に察知した営業マンが頻繁に訪れ、
ユーザーはあっさり鎮圧されていく。
ピカピカの新車に、薄汚れた建物は似合わない。
分かります。
でも、建物の「防水」に関してはどうか。
うっすら感じていても、
あまり意識していないのが普通かもしれない。
災害は起こりそうで、どこか自分には関係ないと信じている。
あの感覚と、少し似ている。
防水というものは、そんな立ち位置にいる。
屋上。
ひび割れ。
端部の浮き。
ドレンの詰まり。

でも、見えない。いや、見ない。
悪いことなんて起こらないという、根拠のない思い込み。
車は毎日見る。
防水は、ほとんど見ない。
車はじかに人に見せる。
屋根なんて、せいぜいグーグルマップで見るくらい。
車の下は、スタンドやディーラーが見る。
屋根の防水は、工事の人しか見ない。
「なにか」が起きない限り、
人の目には触れない。
建物の防水は、贅沢品じゃない。
資産を守る“保険”だ。
雨漏りしてから直すのは、
エンジンが焼き付いてからオイルを入れるようなもの。
車は5年で価値が落ちる。
きちんと守られた建物は、価値を残す。
どちらも、
手放すときに分かる。
カッコよさは、足元から。

屋上は見えない。
けれど、そこが崩れたら全部崩れる。
私もアルファードが好きだ。
でも、新車の前に、
一度だけ屋上を見上げてみてほしい。
たぶん、
未来の自分が、少しだけ安心する。
ではまた。どこかの屋上で。
山本

月々いくらで乗れます。
頭金ゼロでも大丈夫です。
今ならグレード、ワンランク上がお得です。
うまい言葉だなと思う。
私も車が好きで、尚かつ、自他ともに認めるミーハーなので、
トヨタ自動車の高級車は、いつだって憧れの的だ。
外観ピカピカの新車を購入しても、
あまり気にされないのが、人の目に触れにくい「下回り」。
北海道でひと冬越えると、
道路に撒かれた融雪剤(塩化カルシウム)の影響で、
下回りがサビサビ、なんてことも珍しくない。

気にする方は、洗車のたびに下回りを洗い、
自ら屈んで車体の下を確認する。
車好きというより「見た目好き」な方々は、
下回りの重要性はなんとなく分かっていても、
つい目を伏せがちだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
建物の維持はどうだろう。
外観は、アルファードに憧れるのと同じように、
シールのひび割れや塗装の劣化を気にする人は多い。

劣化を敏感に察知した営業マンが頻繁に訪れ、
ユーザーはあっさり鎮圧されていく。
ピカピカの新車に、薄汚れた建物は似合わない。
分かります。
でも、建物の「防水」に関してはどうか。
うっすら感じていても、
あまり意識していないのが普通かもしれない。
災害は起こりそうで、どこか自分には関係ないと信じている。
あの感覚と、少し似ている。
防水というものは、そんな立ち位置にいる。
屋上。
ひび割れ。
端部の浮き。
ドレンの詰まり。

でも、見えない。いや、見ない。
悪いことなんて起こらないという、根拠のない思い込み。
車は毎日見る。
防水は、ほとんど見ない。
車はじかに人に見せる。
屋根なんて、せいぜいグーグルマップで見るくらい。
車の下は、スタンドやディーラーが見る。
屋根の防水は、工事の人しか見ない。
「なにか」が起きない限り、
人の目には触れない。
建物の防水は、贅沢品じゃない。
資産を守る“保険”だ。
雨漏りしてから直すのは、
エンジンが焼き付いてからオイルを入れるようなもの。
車は5年で価値が落ちる。
きちんと守られた建物は、価値を残す。
どちらも、
手放すときに分かる。
カッコよさは、足元から。

屋上は見えない。
けれど、そこが崩れたら全部崩れる。
私もアルファードが好きだ。
でも、新車の前に、
一度だけ屋上を見上げてみてほしい。
たぶん、
未来の自分が、少しだけ安心する。
ではまた。どこかの屋上で。
山本
カテゴリ:誰かに教えたい話
2026.03.06
防水屋メシ①

ガテン系に分類される防水業。
鳶さんや大工さんほどのパワー勝負ではありませんが、体力はとにかく使います。
屋上は、天国に一番近い職場。
防水屋の一日は、天気と腹で動いています。
喰わないと持たない仕事の筆頭と言っても、過言ではないでしょう。
朝と昼は、コンビニか現場近くの飲食店。
コンビニが近くにあれば、現場職人の7割はそこで昼を買います。

愛妻弁当持ちは、意外と少ない防水業界(当社調べ)
食堂に行けばいいと思われがちですが、防水屋やペンキ屋のような“汚れ系喰種”にとって、昼の食堂はハードルが高いんです。
着替えて移動して、注文を待って、食べて、戻る。
気づけば昼休みの三分の二が終了。
ガテン系の昼休みは、体力回復のための「昼寝」が基本。
食堂のロスタイムは、かなり致命的です。

だからヨゴレ系は、コンビニ弁当が主流になります。
現場に来てくれる仕出し弁当屋さんがいたら、もう女神ですね。
建築屋の昼メシはシンプル。
肉とボリュームがあれば、誰も文句は言いません。
味噌汁が無いとダメとか言い出す職人も最近は増えましたが、昔は食う時間すらなく、胃に押し込んで戻るなんてことも普通でした。
今どきのオシャレ港区職人とは、たぶん同じテンポで食事はできません(笑)
北海道の職人のオアシスといえば、
セイコーマート。

安い。多い。早い。
みんな大好き、セコマのカツ丼。
午後を生き抜く体力は、昼メシで決まります。
ガッツリ飯の王道は、
ラーメン+チャーハン+餃子。
大盛りは基本です。
コスパ重視なので、日替わり定食も人気。
ご飯おかわり自由なんてあったら、もう名店。
コンビニ派のスタンダードは、
おにぎり+カップ麺+唐揚げ。

夏はガリガリ君で一旦身体を冷やしてからご飯食べるのも定番です。
職人の昼メシ評価基準は、普通の感覚とは少し違います。
量が多い → 最重要
駐車場が広い → 北海道では必須
提供が早い → タイムイズ昼寝
美味いかどうかより先に、この基準で選びます。
そして最大の評価基準は、
「よし、午後からもう一息いくか」
そう思えるかどうか。
ただし、ガッツリ飯にもリスクがあります。
食べすぎて動きが重くなる。
血糖値爆上げ寝すぎてだるさが残る。
満腹と作業効率は、だいたい反比例します。
デキる職人の午後イチは、目に見えて気だるそうにしてますね(笑
仕事終わりには、ほんの小さなご褒美。
・仕事終わりのラーメン
・冬の現場帰りのコンビニ肉まん
・汗をかいた日の一杯のビール
いい仕事をした日は、メシがうまい。

うまいメシを食うために、
また明日も働きます。
ではまた、どこかの屋上で。
山本
カテゴリ:お腹いっぱいな話
2026.03.02
夢見るトーチじゃいられない
熱アスファルト(以下、熱アス)に代わり、日本のみならず全世界で一番流通している
「改質アスファルトトーチ防水」

その話の前提として、まず熱アスという作業の話を。
熱アスは、固体のアスファルトコンパウンドを溶解釜に入れ、
強力な灯油バーナーで液状になるまで溶かし、
溶けたアスファルトを接着剤としてアスファルトシートを貼り付けていく工法です。
固体のアスファルトコンパウンドが液状になるのは約280度前後。
そこまで溶解すると、臭いと煙が発生して周囲に広がります。
道路のアスファルト工事と似た、あの独特の工業臭。
周囲に住宅やマンション、ビルが密集していると、苦情が出ることもあります。
また、熱アスは何層も積層して防水層を形成する工法です。
多くの資材を使用し、溶解釜の上げ下ろしにはクレーンも必要になります。
近年は、積層を減らす冷熱併用工法や、田島ルーフィングでいう「BANKS(バンクス)」のように、熱アスとトーチ防水の良いところを組み合わせた仕様などもあります。
温故知新。
現代は多種多様な工法に恵まれた時代ですね。
それでも、所謂お役所物件や自衛隊関連の工事では、昭和から仕様が変わらず、昔ながらの熱アスが採用されているケースもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――
話をトーチ防水に戻します。
トーチ防水とは、
アスファルト防水シートの裏面に、改質アスファルトコンパウンドが工場の段階で均一に塗布されており、
ガスバーナーで炙ることでそのアスファルトが溶け出し、それを糊として貼り付ける工法です。

貼り付けにはプロパンガスを使用します。
音は大胆で、ジェットエンジンのような爆音が出ますが、臭いは熱アスの1/10程度まで軽減されます。
材料以外で必要なのはプロパンガスボンベのみ。
一般的には10kgボンベを使用し、手で運搬できるため作業の乗り込みや撤収が早いのも特徴です。
ガスバーナーを使用する以上、火傷や火災の危険性はあります。
熱アスより施工性が高く、工程も少なく、保証は熱アスと同等。
価格は熱アスの半分以下。
まさに夢のような防水工法として、ドイツをはじめヨーロッパから世界に広まりました。
バーナーさえあれば施工できる手軽さから、日本でも1990年代から急速に普及しました。
防水専門職だけでなく、他業種もトーチ防水を扱うようになります。
しかしトーチ防水は、炙りすぎるとアスが溶けすぎて油分が飛び、接着性も大幅に下がり、シートはただの紙と化してしまいます。
逆に、炙りすぎを恐れて適当な火量で炙らなければ、接着機能を果たしません。
シートの炙り具合は、天候・気温・施工場所など様々な環境に左右されます。
材料メーカー側からは「裏面印字が見えなくなるまで炙る」程度の指定はありますが、溶け具合に対する細かく具体的な数値指示はありません。
貼りの理屈は様々。多種多様。
つまり、炙り加減は職人任せです。
この、シートをあぶる難しさ。

もちろん、ローラーでの圧着なども関係します。
ですがそれ以前に、どの程度の炙りでアスが水密を保ち、防水として機能するのか。
その見極めの難度が極めて高い。
見た目には、温める程度の炙り方でも張り付いて見えるから困りもの。
手軽にできる分、トーチ黎明期には施工者の理解不足や経験不足による接着不良が多発しました。
――――――――――――――――――――――――――――――
当時は建設業全体の価格競争も重なり、業界全体の品質低下を招いた時期でもあります。
熱アスは少なくとも2層以上の積層が基本。
一方トーチは一層でも熱アスと同等の保証。
しかも価格は半分以下。
建築主から歓迎されるのは当然でした。
そしてバブル崩壊後、乱立した防水業者による更なる価格破壊。
未熟な作業員による施工不良、漏水事故。
2000年代初期には、ゼネコンからの信頼を失い、トーチ防水には「安かろう悪かろう」のイメージが定着します。
――――――――――――――――――――――――――――――
それでも市場シェアは拡大しました。
2010年を過ぎには、技術のない業者はどんどん淘汰され
施工レベルは現在の水準まで引き上げられました。
とはいえ、端部処理や重ねの圧着など、積層が少ない分、職人に求められる精度は依然として高いままです。
アスを流せば防水として機能する熱アスとは違い、
炙れば防水、という単純な品物ではないのが、トーチ工法です。
――――――――――――――――――――――――――――――
「♪もっと激しくシート炙りたい
No No それじゃ貼りつかない
素敵な火で炙りたい
No No それじゃ物足りない
現場の中、今も 見つめてる
バブルの私がいる
夢見るトーチじゃいられない」
ヘイ!
ではまた、どこかの屋上で。
山本
「改質アスファルトトーチ防水」

その話の前提として、まず熱アスという作業の話を。
熱アスは、固体のアスファルトコンパウンドを溶解釜に入れ、
強力な灯油バーナーで液状になるまで溶かし、
溶けたアスファルトを接着剤としてアスファルトシートを貼り付けていく工法です。
固体のアスファルトコンパウンドが液状になるのは約280度前後。
そこまで溶解すると、臭いと煙が発生して周囲に広がります。
道路のアスファルト工事と似た、あの独特の工業臭。
周囲に住宅やマンション、ビルが密集していると、苦情が出ることもあります。
また、熱アスは何層も積層して防水層を形成する工法です。
多くの資材を使用し、溶解釜の上げ下ろしにはクレーンも必要になります。
近年は、積層を減らす冷熱併用工法や、田島ルーフィングでいう「BANKS(バンクス)」のように、熱アスとトーチ防水の良いところを組み合わせた仕様などもあります。
温故知新。
現代は多種多様な工法に恵まれた時代ですね。
それでも、所謂お役所物件や自衛隊関連の工事では、昭和から仕様が変わらず、昔ながらの熱アスが採用されているケースもあります。
――――――――――――――――――――――――――――――
話をトーチ防水に戻します。
トーチ防水とは、
アスファルト防水シートの裏面に、改質アスファルトコンパウンドが工場の段階で均一に塗布されており、
ガスバーナーで炙ることでそのアスファルトが溶け出し、それを糊として貼り付ける工法です。

貼り付けにはプロパンガスを使用します。
音は大胆で、ジェットエンジンのような爆音が出ますが、臭いは熱アスの1/10程度まで軽減されます。
材料以外で必要なのはプロパンガスボンベのみ。
一般的には10kgボンベを使用し、手で運搬できるため作業の乗り込みや撤収が早いのも特徴です。
ガスバーナーを使用する以上、火傷や火災の危険性はあります。
熱アスより施工性が高く、工程も少なく、保証は熱アスと同等。
価格は熱アスの半分以下。
まさに夢のような防水工法として、ドイツをはじめヨーロッパから世界に広まりました。
バーナーさえあれば施工できる手軽さから、日本でも1990年代から急速に普及しました。
防水専門職だけでなく、他業種もトーチ防水を扱うようになります。
しかしトーチ防水は、炙りすぎるとアスが溶けすぎて油分が飛び、接着性も大幅に下がり、シートはただの紙と化してしまいます。
逆に、炙りすぎを恐れて適当な火量で炙らなければ、接着機能を果たしません。
シートの炙り具合は、天候・気温・施工場所など様々な環境に左右されます。
材料メーカー側からは「裏面印字が見えなくなるまで炙る」程度の指定はありますが、溶け具合に対する細かく具体的な数値指示はありません。
貼りの理屈は様々。多種多様。
つまり、炙り加減は職人任せです。
この、シートをあぶる難しさ。

もちろん、ローラーでの圧着なども関係します。
ですがそれ以前に、どの程度の炙りでアスが水密を保ち、防水として機能するのか。
その見極めの難度が極めて高い。
見た目には、温める程度の炙り方でも張り付いて見えるから困りもの。
手軽にできる分、トーチ黎明期には施工者の理解不足や経験不足による接着不良が多発しました。
――――――――――――――――――――――――――――――
当時は建設業全体の価格競争も重なり、業界全体の品質低下を招いた時期でもあります。
熱アスは少なくとも2層以上の積層が基本。
一方トーチは一層でも熱アスと同等の保証。
しかも価格は半分以下。
建築主から歓迎されるのは当然でした。
そしてバブル崩壊後、乱立した防水業者による更なる価格破壊。
未熟な作業員による施工不良、漏水事故。
2000年代初期には、ゼネコンからの信頼を失い、トーチ防水には「安かろう悪かろう」のイメージが定着します。
――――――――――――――――――――――――――――――
それでも市場シェアは拡大しました。
2010年を過ぎには、技術のない業者はどんどん淘汰され
施工レベルは現在の水準まで引き上げられました。
とはいえ、端部処理や重ねの圧着など、積層が少ない分、職人に求められる精度は依然として高いままです。
アスを流せば防水として機能する熱アスとは違い、
炙れば防水、という単純な品物ではないのが、トーチ工法です。
――――――――――――――――――――――――――――――
「♪もっと激しくシート炙りたい
No No それじゃ貼りつかない
素敵な火で炙りたい
No No それじゃ物足りない
現場の中、今も 見つめてる
バブルの私がいる
夢見るトーチじゃいられない」
ヘイ!
ではまた、どこかの屋上で。
山本
カテゴリ:身内しか笑えない話
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